上級検事執務室。






私はいつもこの扉を前にすると、少し躊躇している気がする。
何故?
緊張しているとでも言うの?―――――この私が?
フッ。
そう考えると躊躇していた自分が嘘のように消えた。 可笑しくて堪らない。

私は完璧でなくてはならないのだから。


コンコン。


「失礼するわ、レイジ―――――」


しかし、完璧をもって良しとする私にでもこの事態を把握するには時間がかかった。


「メイ?」
「狩魔冥!」


両腕を捕まれソファーを背に追いやられている御剣怜侍。
その上に今にでも被さる勢いの…成歩堂龍一。

明らかに『今まで深刻な話をしていました』と言わんばかりの 二人の空気に、翻したい気持ちに駆られた。
しかし、こんな空気に呑まれる私ではないわ!


「…お邪魔だったかしら?」


するとレイジがすぐさま「いや、全く持ってそのような事はない」 と延べ、立ち上がり、私に向かって姿勢を正した。
その後ろで成歩堂龍一が「…ミツルギィ…」と 泣きそうな声を漏らしている。
…流石にこの空気でソレは無いんじゃないかしら、レイジ。


「どうしたのだ、メイ?」


めずらしいな。
レイジが成歩堂龍一を無いものと扱い始めたので私もそれに習い、会話を続ける事にした。


「頼まれていたモノを持って来てあげたのよ。 …貴方、使い終わったら持って来るように私に言った事、覚えてないのかしら?」
「…ああ、それか。済まない、感謝する」
「老化にはまだ早いわよ?」
「…フ、違いない」
「―――――ねぇ」


私達の遣り取りが終わるのを待っていたかのようなタイミングで 成歩堂龍一が声をあげた。 まだいたの。


「ねぇ、御剣。さっきの話だけど…」
「―――――メイ。キミはこの後は帰りだろうか?」


そこで私に質問が振られるとは思わなかったから少し驚いた。
レイジはあくまで成歩堂龍一を意識化に入れる気はないらしい。


「え、ええ…」
「なら丁度良い。これから―――――」


微笑みながら誘われて、 無意識に胸が高鳴るのが自分でも抑えられなかった。
なに?何を言うつもりなの御剣怜侍―――――ッ!!!




「成歩堂に送って貰いたまえ。彼はコレから暇を持て余しているそうだ」
「「・・・・・・は?」」




この時ばかりは流石の私も空気に呑まれてしまった。
成歩堂龍一と声がハモるだなんて、一生の不覚!























「…憐れね、成歩堂龍一…」
「…人のこと言えないだろ?狩魔冥…」


ピシィイィ!


「いでぇえっ!!!」
「失礼。ムカついたものだから」


フルネームで呼ばれるのは癪に障るわ・・・・・この男には特に。
一度目は流してしまったが、二度目はない!


「人の名をフルネームで呼ばないことね」


そう告げると後ろから「自分だって呼ぶクセに… ボクはお前が改めるまで止めないからなー!」 等と子供のような呟き声が耳に届いた。
…ホント、小さい男。


「レイジは何故、貴方みたいな男に捕まったのかしら…」
「悪かったな」


心の奥から不思議に思う。 やはり思春期を完璧な我が家で暮らしてしまった為に、 今頃になってこのような駄目な男に惹かれてしまったのだろうか。


「…聞こえてるからな、全部」
「アラ、聞こえるように言ったのよ?」


突如、沈黙が訪れ、私は少し戸惑った。 …少し言い過ぎたかしら?
反撃が返ってこない事に調子を狂わされ、何を言ったら良いか 迷っていると、成歩堂龍一はようやく口を開いた。


「…捕まえられてたら、こんなに苦労はしてないよ…」


心の底からの、叫び。
私はとにかく驚いた。


「…厭きれた。まだウジウジと悩んでるの?さっさと告げてしまいなさいな」
「告白ならしたさ!…って、あー…」


頭を下げ、ぐしゃぐしゃと後ろ髪を掻き毟る。
意外だった。
彼から想いを告げられれば、レイジは受け入れると思っていたから。


「…そう、振られてるの…」
「…言っておくが、狩魔冥―――――キミも関わっているんだぞ」
「私が?何故?」


フルネームで呼ばれた事は勿論気になったが、 今はそれよりも彼の発言の続きが気になった為にムチは我慢した。 …後で憶えておきなさい。


「自分の魅力不足を私のせいにするのはどうかと思うけど?」
「なっ!そ、そうじゃなくて!」


成歩堂龍一は一回言葉を切ると、言葉を選びながら、 実に言いにくそうに言葉を継げた。


「そ、その、御剣は…キミと、僕とのことを…疑って、いるだろう?」


ああ、そういうこと。
私は成歩堂龍一が言わんとしているコトをようやく理解した。 レイジは物凄く失礼な事に私が成歩堂龍一を好きだと勘違いしている。 違うとムチを振り回しても「少しは素直になりたまえ」と、 取り合っては貰えなかった。
以来、レイジはこうして度々、私と成歩堂龍一を二人にした。
おせっかいにも程がある。
私はこの『おせっかい』が、成歩堂龍一がレイジに告白するまでの 間だ、と我慢してきたのだが―――――


「…そう、まだ勝敗は私の方に分がある、と言うことね…?」
「!」


青褪める男を前にして、口の端が釣り上がるのが止められない。
そう!私が見たかったのは、この男のこの顔!なんという爽快感!


「礼を言うわ、成歩堂龍一…この勝負、負ける気はしないわね」
「―――――ッ!!!」
「見送りはココで結構よ。…元々車も免許も持っていない貴方に 私のエスコートが務まる訳はないのだけれども」


私は真っ青になった男の顔の目の前で、人差し指を左右させると、 彼に背を向け歩き出した。








本当はわかっている。
この優越感は長く続かないということを。
レイジはいつかきっと、彼の手の中に堕ちるだろう。

それは遠くない、未来。

ただ、今だけは私―――――妹の方が大切みたいだから。

この気分をたっぷりと味わせてもらおう。
そして、これから先も、この位置だけは譲るわけにはいかない。

彼の中の、数少ない『大切なモノの』位置だけは。
…惜しむべくは『妹』として、というトコロなんだけれども。


しかし、あの二人と言ったら本当に。




「フ…バカによるバカ同士のバカげたイジの張り合いね」








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文章は難しいです…
たまに書きたくなって、書いた結果がコレですよ…
きぃー!

本当はもっと、二人の仲を取り持とうとしている 『世話焼きオバチャン』な天然みったんが 書きたかったのですが…(ナニソレ

こう、みったんは本気で、
『可愛い妹分の為に頑張らねば!』
『成歩堂にだったらメイを任せられる!』
てな感じで勘違いしてて、一人で勝手に盛り上がってるんですよ。
そして二人をげんなりさせてれば良いと思います。
いずれ真相を聞かされて凹むとイイヨ!

それにしてもみったんとメイちゃん、
どっちが先なんでしょうか?師匠についたの。
ゲーム中はメイちゃんが「レイジは弟のようなもの〜」と 話していますが、 ファンブックには「御剣は冥の兄弟子にあたる」と書いてあるし。
でも攻略本にはやっぱり「姉」になってるし…うーん?

と言うことで私は『ほぼ同時だった』説を勝手に唱えるよ!
法廷デビューも同時期っぽいし。
互いに「弟」「妹」と思いあっていればいいな(夢)

ミツメイもガッツリ大好きです。



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